事業承継BUSINESS-SUCCESSION
特例事業承継税制
平成21年に創設された事業承継税制が平成30年に大きく改正され「特例事業承継税制」となりました。
この創設により、一定の手続きをとることにより、一括で贈与等をした非上場株式等の贈与税額が全額納税猶予されます。また、贈与者の死亡の際にはこの株式にかかる相続税額も全額猶予の対象となります。
下記のように特例事業承継税制は従前の事業承継税制に比べて非常に使いやすく、リスクも大きく減少しました。
項目 | 一般事業承継税制 | 特例事業承継税制 |
---|---|---|
対象株式 | 総株主等議決権数の3分の2 | 全株式 |
相続時の猶予対象評価額 | 80% | 100% |
雇用確保要件 | 5年平均80%維持 | 実質撤廃 |
贈与等を行う者 | 改正前:先代経営者のみ 改正後:複数株主可 |
複数株主可 |
後継者 | 後継経営者1人のみ | 後継経営者3名まで(10%以上の持株要件) |
相続時精算課税 | 推定相続人等後継者のみ | 推定相続人等以外も適用可 |
経営承継期間後の減免要件 | 民事再生・会社更生時にその時点の評価額で相続税を再計算し、超える部分の猶予税額を免除 | 左欄の内容に譲渡・合併・株式交換等による消滅等・解散時が加わる |
特例承継計画の提出 | 不要 | 要 |
提出期間 | ― | 平成30年4月1日から5年間 |
先代経営者からの贈与の期間 | なし | 平成30年1月1日から平成39年12月31日まで |
この特例事業承継税制がどれくらい使いやすくなったのかを見ていきます。
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贈与税の納税猶予を例題で考えてみましょう。
- 総株主等議決権数が12万株…評価額で6億円
全株式を先代経営者が保有
後継者(先代経営者の推定相続人)に全株式を贈与 - 贈与税額
①暦年贈与の場合
(6億円-110万円)×55%-640万円=3億2,299万5,000円
②相続時精算課税を使った場合
(6億円-2,500万円)×20%=1億1,500万円
①であれ②であれ、本来は贈与した年にこれらの贈与税額を支払わなければなりません。
しかし、この特例事業承継税制を使えば、全額が納税猶予されます。
また、その納税猶予された贈与税は、贈与者が死亡したときに一定の手続きにより免除され、
贈与時点の評価額で相続税の課税価格に算入され、相続税の計算となります。 - 総株主等議決権数が12万株…評価額で6億円
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続いて相続税の納税猶予を見ていきます
- 財産等
相続人…長男・次男の2名
株式評価額…6億円 ⇒ 長男が贈与で取得している
預貯金…2億円 ⇒ 次男が取得 - 相続税の計算
課税価格の合計額…6億円+2億円=8億円
基礎控除額…3,000万円+(600万円×2人)=4,200万円
法定相続分に応ずる取得金額…(8億円-4,200万円)÷2人=3億7,900万円
相続税の総額… 1人 1億4750万円×2人=2億9,500万円 - 各人の相続税額
長男 2億9,500万円×6億円/8億円=2億2,125万円 ⇒ 全額納税猶予される
次男 2億9,500万円×2億円/8億円=7,375万円
上記のように、長男は「特例経営承継相続人等」=後継者として
対象株式に対応する相続税額の全額が納税猶予されることになります。 - 財産等
非上場株式等の後継者への移行が非常に優遇されることとなりました。
ただし、この税制の適用を受けることができる業種、先代経営者、後継者等要件がありますので、
使ってみたいと思われた経営者の方はぜひご相談ください。